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JOURNAL (DOMESTIC) 再構成型概念マップを用いたプロジェクトリスク予防法

林 直也, 渡邉 弘大 (広島大学大学院先進理工系科学研究科), 林 雄介 (広島大学大学院先進理工系科学研究科), 平嶋 宗 (広島大学大学院先進理工系科学研究科)

人工知能学会論文誌 (JSAI)

November 01, 2025

異なる専門性を持つ多様な職種が関わる現代のWebサービス開発において,そのプロセスは速度と複雑性を増し続けている.プロジェクト成功にはチーム内の効果的な情報伝達が不可欠だが,各メンバーの背景知識が異なるため認識の齟齬が生じやすい.特に,プロジェクトの初期段階で発生した齟齬が未検出のまま進行すると,後の工程で手戻りや問題を引き起こし,プロジェクト失敗のリスクを増大させる.この齟齬を未然に防ぐには,情報が伝達される際の文脈をチーム全体で共有することが極めて重要となる. そこで本研究は,プロジェクトリスクを低減するため,先行研究で提案・実証された「再構成型概念マップ」を応用する.本手法を,ウォーターフォール型開発の要件定義・設計フェーズや,アジャイル開発のイテレーション初期段階など,具体的な成果物が固まる前の段階に適用し,情報伝達の状況を可視化することを目的とする.具体的には,まず情報の伝達者が伝えたい内容を概念マップ(本研究では「共有理解マップ」と呼ぶ)で表現する.次に,そのマップをノードとリンクの部品に分解し,情報の被伝達者がそれらの部品を自身の理解に基づいて再構成する.最後に,再構成されたマップを元の共有理解マップに重ね合わせることで,両者の認識の差分を命題レベルで抽出する.この手法は,既に教育現場で有効性と有用性が実証されている. 本研究では,この手法を実際のWebサービス開発を行うBizDevOpsチームに適用し,情報共有における齟齬の検出と,それに伴うプロジェクトリスクの低減を試みた.その結果,本手法は通常業務の情報伝達プロセスでは見過ごされた認識の齟齬を効果的に検出できること,そして参加者からも業務上有用であると評価され,メンバー間の共有理解の形成に役立ったことが示された.具体的には,(1)本手法が齟齬の検出に有効であること,(2)参加者が時間的コストはかかるものの有用な手法であると判断したこと,(3)伝達者が伝えたい内容を概念マップで適切に表現できたこと,そして(4)再構成という活動自体が被伝達者の共有理解を深化させる上で効果的であったこと,が示唆された.

Paper : 再構成型概念マップを用いたプロジェクトリスク予防法open into new tab or window (external link)